ユノ・フェルティアの物語

第二章「はじめての空」

第3話「森の中の出会い」


 クレスの町を出て、三日目の朝。

 昨夜泊まった東屋で目を覚ました時から、空が重苦しい灰色に覆われていた。風が妙に湿っていて、肌にまとわりつくような不快感がある。雨が来る。

 干し肉をかじりながら地図を広げて確認する。今日中にカルテの町に着けるはずだ。街道はまっすぐで、距離もそれほどない。雨が降ったとしても、最後の一日と思えば頑張れるだろう。

 そう考えていたのは、まだ雨の本当の辛さを知らなかった時の話だった。


 昼前になって、ついに空が落ちてきた。

 最初はぽつり、ぽつりと頬を濡らす程度だった。でも雨は容赦というものを知らない。歩いているうちにどんどん強くなって、ついには頭上から叩きつけてくるような激しさになった。

 慌てて外套のフードを被る。でも雨は狡猾で、正面からだけでなく横からも斜めからも攻めてくる。フードを下げれば顔が濡れ、上げれば肩や襟から染み込んでくる。首筋に冷たい雫が流れ落ちて、背中をぞくりと震わせた。

 足元も最悪だった。街道の土が雨を吸って、ぬかるんだ泥に変わっている。一歩歩くたびに靴が重くなり、足を上げるのに余計な力が要る。このままでは体力が持たない。

 街道の両側には深い森が広がっていた。地図で確認したところによると、カルテの町の手前にある大きな森で、街道はその南端をかすめるように通っている。木々の向こうは薄暗くて、何があるか分からない。普段なら近づかない場所だ。

 でも今は、その暗い森が救いに見えた。

 雨脚がさらに強くなって、視界が白い霧のようになってきた。このまま街道を歩き続けるのは無謀だろう。足を滑らせて転んでも誰も助けてくれないし、風邪をひいて熱を出しても一人で耐えるしかない。

 森の中なら、木の葉が屋根代わりになってくれるかもしれない。少しの間だけでも雨宿りさせてもらおう。

 そう決めて、わたしは街道から逸れて森の入り口に向かった。


 森に一歩足を踏み入れると、世界が変わった。

 頭上の葉が重なり合って天然の屋根を作り、激しい雨をかなりの部分で受け止めてくれていた。地面に落ちてくるのは、葉から葉へと伝わって滴り落ちる雫だけ。まだ濡れることは濡れるけれど、街道にいた時のような容赦ない攻撃とは比べものにならない。

 安堵のため息をついて、大きな樫の木を見つけた。太い幹と張り出した根が、自然の椅子を作っている。そこに腰を下ろして、荷物を降ろした。外套を脱いで絞ると、信じられないほどの水が滴り落ちた。

 ようやく一息つける。

 雨の森は、不思議な美しさに包まれていた。

 激しい雨音が森全体を包み込んでいるのに、なぜか静寂を感じる。木々が音を吸収して、やわらかく変化させているのだろうか。その雨音の合間に、鳥のさえずりや小さな生き物の気配が混ざっている。

 緑が濃い。雨に濡れた葉が光って、まるで宝石のようだ。空気も違う。街道の埃っぽさとは正反対の、湿った土と葉の匂い。深く息を吸うと、肺の奥まで森の生命力が染み込んでくるようだった。

 山の森を思い出す。でも、あそこともまた違う。木の種類が違うし、匂いも微妙に異なる。山の森はもっと清冽で、こちらはより豊穣な感じがする。

 少しの間、雨音に耳を傾けながら休んでいよう。そのうち雨が弱くなったら街道に戻ればいい。

 目を閉じて、森の音に身を委ねた。雨音、葉の擦れる音、遠くで鳴く鳥の声——

 その時だった。

 胸の奥が、急にざわめいた。

 この感覚は知っている。四年前の夏、山で魔物のオオカミに遭遇した時と同じ。何かが間違っている。何かが、あってはならないものがここにいる。

 目を開けて、周囲を見回した。

 雨に煙る森の中は薄暗くて、遠くまで見通せない。でも目で見えなくても——感じる。温かくない、荒い気配。とげとげしくて、肌を刺すような存在感。

 魔物。

 一匹じゃない。複数いる。三匹、いや、もっといるかもしれない。まだ遠い場所にいるようだけれど、動いている。何かを——追いかけているような動き方。

 何を追いかけているんだろう。

 そう考えた瞬間、遠くから声が聞こえてきた。

 人間の声。叫び声。

「——助けて!」

 立ち上がっていた。考える前に、身体が反応していた。荷物を背負って、声のする方向に駆け出していた。

 頭の中で、先生の声がする。

『考えるな、ユノ。考えている時間があったら足を動かせ。身体が動くうちに行動しろ』

 でも今回は違う。今回は、考えなければならないことがある。

 あの気配は間違いなく魔物だった。声がした方向に行くということは、魔物の群れと鉢合わせするということ。しかも一人で。

 先生だったら、なんて言うだろう。

 ——逃げろ。そう言うに決まっている。お前一人で何ができる。無駄死にするな。

 分かってる。分かってるけれど、足が勝手にそちらに向かっている。誰かが困っているのを知って、見過ごすことができない。

 でも、もしかすると——

 先生なら、きっと行く。「放っておけなかった」と言いながら。わたしを拾った時も、そう言った人だ。

 わたしがここにいるのも、先生がそういう人だったからだ。なら、わたしだって——


 森の奥に向かうにつれて、魔物の気配がどんどん濃くなった。

 三つの荒々しい存在が一ヶ所に集まっている。殺気に満ちた、冷たい悪意。そしてその中心に——別の気配。人間の気配。温かいけれど、弱っている。怯えて、震えている。

 木の幹に身を隠しながら、慎重に近づいていく。枝をくぐり、根を跳び越えて、できるだけ音を立てないように。

 やがて、森の中に開けた場所が見えてきた。小さな沢が流れていて、その岸辺に——

 息を呑んだ。

 馬車があった。いや、馬車だったもの、と言うべきか。車輪の一つが完全に砕け散り、車体は横倒しになって無惨な姿をさらしている。馬の姿は見えない。逃げ出したのか、それとも——考えたくない可能性もある。

 御者台のそばに、大人の男性が一人倒れていた。動かない。生きているのか死んでいるのかも、この距離では分からない。

 そして馬車の陰に、二つの人影が身を寄せ合っていた。

 一人は大人の男性。革鎧を身に着けた、いかにも護衛らしい体格の人物。右手に剣を構えているが、左腕から血を流していて、立ち方が不安定だ。明らかに怪我をしている。

 もう一人は——子供だった。わたしと同じくらいの年頃の男の子。深い紺色の外套を着て、馬車の残骸に背中をつけて座り込んでいる。顔は青ざめているが、パニックになっているわけではないようだ。しっかりと周囲を見据えている。

 そして、その二人を囲むように、三体の黒い獣がいた。

 狼だった。でも、山で見たことがあるような普通の狼ではない。一回り以上大きくて、体高がわたしの腰ほどもある。全身が真っ黒な毛で覆われていて、その毛の隙間から青白いマナの光がちらちらと漏れ出ている。

 魔物の狼。

 三体の狼は、ゆっくりと間合いを詰めていた。じりじりと、獲物を追い詰めるように。急がず、確実に。まるで狩りを楽しんでいるかのようだった。

 護衛の男性が剣を振った。狼の一体が身軽に飛び下がって、すぐに元の位置に戻る。男性の剣は空を切っただけで、威嚇にもなっていない。

 そうだ。普通の鉄の剣では、マナを纏った魔物にはまともなダメージを与えることができない。先生が何度も教えてくれたことだ。あの護衛の男性は、どんなに腕が立っても勝てない相手と向き合っている。

 時間がない。

 状況を整理する。魔物の狼が三体。護衛は一人だが負傷している。子供が一人。対するわたしは一人。

 勝算は——正直に言って、ほとんどない。

 でも、何もしなければ確実に悪い結果になる。なら、やってみるしかない。

 先生だったら、どうするだろう。

 『まず数を減らせ。複数を相手にするときは、一体ずつ片付けろ。全部を同時に相手にするな』

 頭の中で先生の声が響いた。そうだ。三体同時は無理でも、一体なら——いや、一体でも厳しいけれど、三体よりはまし。

 腰に下げた魔導書に手を当てた。術式を頭の中で組み立てる。風と火の複合術式。先生に何百回も練習させられた、わたしの最も得意な魔術。

 深呼吸。一回だけ。心を落ち着ける。

 そして——木の陰から飛び出した。

「こっちよ!」

 大声で叫びながら、右手を狼たちに向けて突き出した。術式を解放する。風と火が絡み合い、灼熱の突風となって狼の群れに向かって駆け抜けていく。

 練習の成果が現れた。二年前よりもずっと強く、ずっと正確。炎を含んだ突風が、狼の一体に直撃した。

 狼が悲鳴のような声を上げた。毛が焦げて、体勢を崩す。完全に倒すことはできなかったけれど、明らかにダメージを与えた。

 しかし——

 三体の狼の注意が、全部こちらに向いた。

 まずい。一体だけを引きつけるつもりだったのに。

 でも、もう後戻りはできない。

 一体の狼が、わたしに向かって飛びかかってきた。大きな口を開けて、鋭い牙を剥き出しにして。

 身体が勝手に動いた。右に転がる。先生に教わった回避の基本。『危険のすぐ隣を通り抜けろ。遠くに逃げるな』

 狼の爪がわたしの左肩をかすめた。外套の布地が裂けて、皮膚にひりりとした痛みが走る。浅い傷だけれど、血が出ている。

 でも致命傷じゃない。まだ動ける。

 転がりながら剣を抜いた。先生の長剣。銀鋼の刃が、雨に濡れた森の薄明かりの中で鈍い光を放つ。

 狼が着地して振り返る前に、わたしは既に立ち上がっていた。

 先生の剣技。第五型「昇日」。足で踏み込み、腰を入れ、剣を下から斜めに振り上げる。三つの動作を一つの流れにまとめる。

 刃が狼の横腹に達した。

 手に伝わる手応え。木剣での練習とは全く違う、生々しい感触。肉を裂き、骨に当たる抵抗。銀鋼はマナを纏った魔物にもきちんと通る。鍛冶屋のおじいさんが言っていた通りだった。

 狼が地面に転がった。立ち上がったけれど、横腹から血が流れていて、さっきまでの俊敏さは失われている。

 一体は行動不能にした。でも、まだ二体残っている。

 残りの二体が、わたしを挟むような位置に移動した。右から一体、正面から一体。挟み撃ちの構え。

 心臓がうるさく鼓動している。手が震えている。でも、まだやれる。

 障壁の術式。右手を突き出して、マナを薄い壁の形に固める。まだまだ薄い。先生のような厚い壁は作れない。でも——

 右側の狼が突進してきた。障壁にぶつかって、ばりんと音を立てて砕ける。でも、その一瞬だけ狼の動きが止まった。

 その隙に、正面の狼に向き直る。

 風の術式を足元に纏わせて、一気に間合いを詰める。先生が教えてくれた「風歩」の応用。

 剣を振り下ろした。狼の右肩に刃が食い込む。狼が怒りの咆哮を上げて、暴れる。剣を引き抜くと、血が飛び散った。

 息が上がっている。腕が重い。マナの消耗も激しい。風と火の複合術式に、障壁に、風歩に。短時間でかなりの量を使ってしまった。

 右側の狼が体勢を立て直して、再び襲いかかってくる。

 避ける。今度は左に。でも反応が遅れた。疲労のせいで動きが鈍っている。狼の爪が外套の裾を引っ掛けて、ばりりと音を立てて裂いた。

 まずい。このままでは——

 火の術式。でも、直接燃やすほどのマナは残っていない。なら——

 両手を広げて、狼たちの周囲の空気に熱を流し込んだ。空気を揺らがせる。陽炎のように。

 狼たちの視界が歪んだ。熱によって屈折した空気が、わたしの姿をぐにゃぐにゃに曲げて見せているはず。

 その隙に——駆け出した。

 狼の方へではない。馬車の方へ。護衛の男性と子供のもとへ。

「動けますか!」

 護衛の男性に向かって叫んだ。男性が驚いた顔でこちらを振り返った。当然の反応だろう。どこからともなく子供が現れて、魔物と戦っているのだから。

「……ああ、動ける。だが、君は一体——」

「説明は後です。狼は三体。一体は重傷、残り二体の視界を奪っていますが、長くは持ちません。逃げるなら今しかありません」

「逃げる……しかし坊ちゃんが——」

 男性が心配そうに子供の方を見た。子供——紺色の外套の少年が、こちらを見上げている。碧い瞳。恐怖に震えているけれど、その奥にしっかりとした意志の光がある。パニックになっていない。立派な子だ。

「立てますか?」

 わたしが聞くと、少年は力強く頷いた。

「立てます」

 声は震えていたけれど、はっきりとした返事だった。

「なら走ってください。わたしが後ろを守ります」

「だが君一人では危険すぎる——」

「今です!」

 わたしは怒鳴った。知らない大人に怒鳴るなんて生まれて初めてだったけれど、時間がない。

 護衛の男性が少年の腕を掴んで、立ち上がった。そして走り出した。わたしも二人の後について走る。

 背後で狼の吠える声が響いた。陽炎による目眩ましが解けたのだろう。追ってくる気配がする。

 森の中を駆ける。雨でぬかるんだ地面、張り出した根、垂れ下がった枝。全部が障害物になって、思うように速度が出ない。

 気配が近づいてくる。二体。最初に傷つけた一体は追ってきていない。やはり重傷だったのだろう。

 でも二体でも十分危険だ。

 走りながら、振り返らずに後ろ手に風を放った。追撃を遅らせるための、弱い風。でも、ないよりはまし。

 前方に明るい場所が見えてきた。森の出口だ。街道がもうすぐ。

「街道に出れば——」

 魔物は人の多い場所、人がよく通る場所を避ける傾向がある。先生がそう教えてくれた。街道に出れば、追ってこない可能性が高い。

 森を抜けて、街道の固い土の感触が足に伝わった。

 振り返る。

 森の入り口で、二つの黄色い目がじっとこちらを見つめていた。憎悪に満ちた目。でも、一線を越えることはしない。しばらく睨み合いが続いて——やがて、暗い森の奥に消えていった。

 追ってこなかった。

 その瞬間、全身から力が抜けた。膝が震えて、その場にしゃがみ込んだ。

「はあ、はあ、はあ……」

 荒い呼吸が止まらない。心臓がうるさく響いている。手が震えて、剣を握っていられない。何とか鞘に収めようとしたけれど、二回失敗した。

 でも——生きている。みんな、生きている。


「大丈夫ですか」

 声がした。顔を上げると、紺色の外套の少年がわたしの前にしゃがみ込んでいた。碧い瞳。心配そうな顔。

 その子の手も、震えていた。

「……大丈夫です」

「肩、血が出てます」

 言われて見ると、左肩の外套が裂けていて、その下に血が滲んでいた。ひりひりする。でも、深くはない。

「かすり傷です」

「でも——」

「それより、そちらは。怪我、ないですか」

 少年は少し驚いた顔をして、首を横に振った。

「僕は大丈夫です。ベルクさんが守ってくれたので」

 護衛の男性——ベルクさんは、少し離れた場所で左腕に布を巻いていた。顔色は悪いけれど、手つきは落ち着いている。

 目が合った。

「……見事だった」

 それだけ言って、ベルクさんはまた傷の手当てに戻った。短い言葉だったけれど、重かった。

 少年がわたしの前に手を差し出した。

「僕はフィンです。フィン・ノルデン」

 握手。泥だらけの手で握り返した。フィンの手は細くて、柔らかかった。剣を握ったことのない手。でも、握り返す力はしっかりしていた。

「わたしはユノ。ユノ・フェルティアです。十四です」

「十四——」

 フィンの表情が変わった。目を見開いて、それから、ゆっくりと伏せた。

「僕も十四です」

 小さな声だった。同い年。そのことが、この子にとって何か意味があるらしい。でもそれが何なのかは、聞けなかった。

「坊ちゃん」ベルクさんが立ち上がった。「まず町に入りましょう。カルテはもうすぐのはずです」

「……はい」

 三人で立ち上がった。雨はいつの間にか小降りになっていた。


 街道を並んで歩く。

 フィンがちらちらとこちらを見ていた。目が合うと、すっとそらす。何か言いたそうな顔。でも言葉にならないらしい。

 わたしも何を話していいか分からなかった。先生とルッツ以外の人間と、こんなに長い時間並んで歩いたことがない。

 沈黙が続いた。雨上がりの雫が葉から落ちる音と、三人分の足音だけが響いている。

 不意に、フィンが自分の両手を見下ろしているのに気づいた。開いたり、閉じたりしている。何かを確かめるように。あるいは、何もなかったことを確かめるように。

「——あの」

 フィンが口を開いた。でも、そのあとが続かなかった。しばらく黙って、小さく首を振った。

「……なんでもないです」

 その横顔に浮かんでいたものが何か、わたしには分かった。先生がよく言ってた。「人の目を見ろ。口は嘘をつくが、目は下手だ」って。

 でも、何も言えなかった。初めて会った人に、かけるべき言葉を、わたしは知らない。

「カルテの町です」

 ベルクさんの声に前を向くと、石造りの壁に囲まれた町が見えていた。


 町の門で、ベルクさんがノルデン家の紋章を見せると、門番が慌てた顔になってすぐに通してくれた。森に残された御者のダモンさんのことを伝えると、救助の手配も始まった。

 宿はベルクさんが手配してくれた。「鋼鉄亭」という、しっかりした造りの宿。

「ユノさんの分も部屋を取ります」

「いえ、そんな——」

「今日の恩を思えば当然です」

 有無を言わさない口調。バレン先生に似てるな、と思った。

 治療師にわたしの肩とベルクさんの腕を診てもらった。わたしの方はやっぱり浅い傷で、薬草を塗って包帯を巻いて終わり。ベルクさんの左腕の方がずっと深くて、治療に時間がかかった。フィンは無傷だった。


 夕食は三人で食べた。温かいシチューとパン。クレスの宿よりずっと豪華で、ちょっと落ち着かなかった。

 食事の間、フィンはほとんど喋らなかった。「ありがとうございます」とか「パン、もう一つどうぞ」とか、そういう丁寧な言葉は出てくるのに、それ以上のことは言わなかった。街道で飲み込んだものが、まだ喉の奥にあるような顔をしていた。

 食事が終わる頃、ベルクさんが聞いた。

「ユノさん、差し支えなければ。行き先は」

「王都です」

「奇遇ですね。坊ちゃんも王都に向かう途中でした」

 フィンがちらりとこちらを見た。

「馬車は壊れましたから、ここからは徒歩になります。カルテから王都まで、街道を使えば五日ほど。よろしければ、道中ご一緒しませんか。人数が多い方が安全ですし」

 わたしは少し考えた。

 ……ほんの少しだけ。

「はい。お願いします」

 一人旅は心細かった。たった数日でも、一人じゃないというのは——ちょっとだけ、嬉しい。

 フィンが小さく笑った。嬉しそうだけど、まだどこか複雑な顔。


 部屋に戻って、寝台に腰を下ろした。

 先生。今日、人を助けました。魔物が三体いて、怖かったです。でも、見過ごせませんでした。

 それから、一緒に旅をする人ができました。フィンという男の子と、ベルクさんという護衛の方です。フィンはわたしと同い年で——何か、言いたいことがあるみたいだけど、まだ聞けてません。

 明日からは、三人です。


第3話 了